研究の原動力は知的好奇心 光を使い、動態で観察するという画期的な手法で初めて分かる細胞の働き
▲顕微解剖学分野は「生体内の見えない世界を見ようとする研究」と話す寺井先生。
深部イメージング技術の開発により、より深い組織の観察が可能となることで、
病気の理解や治療法の開発にも新たな可能性が広がります。
万博での展示では、この分野の重要性と可能性が伝わることが期待されます。
医学部 医学科 顕微解剖学分野 教授 寺井 健太(てらい けんた)
二光子顕微鏡を用いた
「生体イメージング」
寺井先生が専門とする「顕微解剖学」は組織学(ヒストロジー)と呼ばれる分野です。肉眼では見えない細胞や組織の構造を顕微鏡で観察し、その形態と機能を理解する学問で、病理学の基礎となる分野でもあります。
顕微解剖学と通常の解剖学との違いは、解剖学(肉眼解剖学)が臓器の位置関係や大きな構造を観察するのに対し、顕微解剖学は細胞レベルの構造を観察します。例えば手を例にすると、肉眼解剖学では血管や神経、骨などの配置を学び、顕微解剖学では皮膚の細胞構造や毛細血管の構造などを学びます。
研究には二光子顕微鏡を用います。二光子顕微鏡は深部組織の高解像度観察が可能な機器で、生きた組織や動物の体内を数時間、継続的に観察?記録することができる「生体イメージング」も可能です。
寺井先生は二光子顕微鏡を活用し、生きたマウスの体内で細胞内の酵素の活性をリアルタイムで観察。光を使ってその活性を操作する研究を手掛けています。
▲二光子顕微鏡による生体イメージング研究の最前線
動態を見ることで
初めてわかる細胞の働き
研究のポイントのひとつに、生きた状態で細胞や組織の働きを、動態で観察することが挙げられます。動態を見ることで、静止画では知ることができなかった情報を得ることができます。
「以前、N K細胞(ウイルス感染細胞やがん細胞を認識して攻撃する免疫細胞)とがん細胞との相互作用について、観察しました。この戦いは基本的に1対1で行われ、N K細胞ががん細胞を捕捉すると、直接的に接触し攻撃を加える。また、N K細胞ががん細胞を捉えて殺傷する確率も、その場で観察でき、排除できる確率は約50 %でした。このような観察結果から、捕捉後の殺傷成功率を向上させることが、治療効果の向上に直結すると考えられます。そこで、光照射により特定分子を活性化させ、細胞機能を制御?強化する技術の開発を目的とした研究を進めています」。
「単細胞!」と言う人が
知らない驚きの事実
人をからかって「単細胞!」と言うことありますが、実際にはヒトの1つ1つの細胞は、とても高い判断能力を持っており、決してバカにできません。
「けがをしたときに傷口が自然にふさがるのは、傷の周りの細胞が『ここに傷ができた』と自分で気づくからです。私たちが目で見て『傷がある』と気づく前に、細胞たちはすでに傷の存在を感知しています。視覚に頼らなくても傷が治るのは、周囲の細胞が傷口を認識して、そこに向かって移動し、修復を始めるからです。
どの方向に傷があって、自分がどちらに動けばよいのかを判断する力を、細胞は1つ1つ持っています。こうした細胞の高い判断力や行動力が、私たちの体を守ってくれているのです」。
近赤外蛍光タンパクを改良し
深部を観察する
深部イメージング技術を開発
寺井先生は二光子顕微鏡を用いて、さらに深部の動態を観察しようと試みています。
例えば、脳が記憶したり学習したりする仕組みを調べるには、記憶に関わる海馬を観察する必要があります。そのために、マウスの頭蓋骨を開け、レンズを押し当てて観察を行っていたそうです。しかしこの方法は、実験用マウスへの負担が大きい上に、二光子顕微鏡の深達度にも限界があり、深さは約1ミリ程度までしか観察できません。
そこでより深い部分を観察できる方法として考え出したのが、波長の長い光、特に1 2 5 0ナノメートルの近赤外線を用いる技術です。赤外線は波長が長いため、散乱されにくく、深部まで届きやすいという性質があります。
この光に反応して明るく光る近赤外蛍光タンパクを改良し、従来より10倍明るく光るようにしたことで、最大で2ミリの深さまで観察できるようになりました。
研究のモチベーションについて伺うと、「1 0 0 %、興味本位」という寺井先生。「細胞はどうやって動いているのだろう?」という根本的な疑問に突き動かされて研究を行っていると話します。
知的好奇心は多くの画期的な発見の源泉となってきた研究姿勢。研究者の純粋な探求が、私たちにも知らなかった世界を見せてくれます。
▲イベント開催の疯狂体育,疯狂体育app下载らせ
わたしとみらい、つながるサイエンス展
EXPO2025 Theme Weeks AGENDA2025
開催日時 : 2025年8月14日(木)?8月19日(火)10:00?20:00(開場10:00)
開催場所 : 大阪?関西万博会場(夢洲)EXPO メッセ「WASSE」North
大阪?関西万博に国立循環器病研究センター特任教授として関わっている寺井先生。
研究を始めた当初、寺井先生は稚魚の間、体が透明なゼブラフィッシュを使っていたそうですが、最近では成魚になっても全身が透明な「透明魚」(ダニオネラ)が実験魚として重宝されているそう。展示では小型水槽で近くから観察できるような展示や二光子顕微鏡で撮った写真などが展示される予定。