紫外線発光ダイオード(UV-LED)照射によるA型インフルエンザウイルス不活化機構の解明 – 高病原性鳥インフルエンザウイルスの不活化にも効果的

トップ記事紫外線発光ダイオード(UV-LED)照射によるA型インフルエンザウイルス不活化機構の解明 – 高病原性鳥インフルエンザウイルスの不活化にも効果的
報告者

徳島大学大学院医歯薬学研究部医学域 予防環境栄養学分野 教授 高橋 章

徳島大学大学院医歯薬学研究部医学域 予防環境栄養学分野 講師 馬渡 一諭

 

研究タイトル

紫外線発光ダイオード(UV-LED)照射によるA型インフルエンザウイルス不活化機構の解明 – 高病原性鳥インフルエンザウイルスの不活化にも効果的

 

報告の概要

徳島大学大学院医歯薬学研究部?予防環境栄養学分野と同大学院社会産業理工学研究部、京都府立医科大学感染病態学教室、日本フネン株式会社の共同研究グループは、紫外線発光ダイオード(UV-LED)照射が高病原性鳥インフルエンザを含めたA型インフルエンザウイルスの不活化に効果的であることを発見しました。また、UV-LED照射は感染細胞内でのウイルスRNAの転写と複製を抑制することで、インフルエンザウイルスの増幅を抑えていることを証明しました。この成果は10月29日に欧州光生物学会(European Society of Photobiology)発行の学術雑誌Journal of Photochemistry & Photobiology, B: Biologyにオンライン掲載されました。

【研究グループ】

    • 徳島大学 大学院医歯薬学研究部医学域 予防環境栄養学分野
      • ?高橋 章教授、馬渡 一諭講師、上番増 喬助教、下畑 隆明助教
    • 徳島大学 大学院栄養生命科学教育部
      • ?野中(西坂)理沙、山本 智実、児島 瑞基
    • 徳島大学 大学院社会産業理工学研究部理工学域 電気電子システム分野
      • ?芥川 正武講師、榎本 崇宏講師
      • ?中橋 睦美助教(現?徳島県立農林水産総合技術支援センター主任)
      • ?木内 陽介顧問(現?徳島大学名誉教授、研究支援?産官学連携センター客員教授)
    • 日本フネン株式会社 研究開発部
      • ?和田 敬宏、岡本 雅之、伊藤 浩、吉田 健一
    • 京都府立医科大学 感染病態学教室
      • ?中屋 隆明教授、大道寺 智講師

 

【学術誌等への掲載状況】

『Irradiation by ultraviolet light-emitting diodes inactivates influenza A viruses by inhibiting replication and transcription of viral RNA in host cells』

Risa Nishisaka-Nonaka, Kazuaki Mawatari, Tomomi Yamamoto, Mizuki Kojima, Takaaki Shimohata, Takashi Uebanso, Mutsumi Nakahashi, Takahiro Emoto, Masatake Akutagawa, Yohsuke Kinouchi, Takahiro Wada, Masayuki Okamoto, Hiroshi Ito, Ken-ichi Yoshida, Tomo Daidoji, Takaaki Nakaya, Akira Takahashi

Journal of Photochemistry & Photobiology, B: Biology 第189巻 193-200ページ(2018年12月発行)

https://doi.org/10.1016/j.jphotobiol.2018.10.017

 

研究概要

【研究の背景】

A型インフルエンザウイルスinfluenza A virus (IAV) はオルトミクソウイルス科に分類されるウイルスです。近年、A型インフルエンザウイルスの中でも鳥類に対して致死性が高いH5N1亜型やH7N9亜型などの高病原性鳥インフルエンザウイルス(Highly Pathogenic avian influenza, HPAI)は野鳥や家禽への感染がアジアを中心に世界的に感染が広まっており、養鶏産業に大きな被害をもたらしています。また近年ではH5N1、H7N9亜型の鳥インフルエンザウイルスは鳥のみならずヒトへの感染事例も多く報告され、ヒトへの感染能力はまだ低いものの感染後は50%近い致死性を示すことから、有効な感染対策が必要とされています(図1)。そこで本研究では紫外線発光ダイオード(UV-LED)照射によるA型インフルエンザウイルス感染予防策に着目しました。近年、世界的に深紫外線LEDの開発も進められており、様々な病原性微生物への効果が報告させています。しかし、インフルエンザウイルスへの効果はほとんど報告がありませんでした。当研究グループは近紫外線(UVA)-LED照射による病原性細菌への殺菌効果と機構を明らかにしてきましたが、A型インフルエンザウイルスに対する効果は不明でした。そこで本研究ではH1N1 亜型(A/Puerto Rico/8/1934)に種々のピーク波長のUV-LEDを照射し, 不活化効果の評価とその機構を明らかにすることを目的としました 。さらに、高病原性鳥インフルエンザ(H5N1亜型)への不活化効果を評価しました。

 

IMG_1.png
図1.鳥インフルエンザウイルスの推定感染経路
鳥インフルエンザウイルスの感染経路は不明な点も多いが、水を介した感染経路も考えられている。

 

【結果の概要】

本研究ではピーク波長がそれぞれ365nm(UVA-LED)、310nm(UVB-LED) 及び 280nm(UVC-LED)のLED(すべて日亜化学工業製) を使用し、許容最大の順電流で照射を行いました(図2)。まず, ウイルス溶液にUV-LEDを照射しMDCK細胞に感染したあと、プラーク法により不活化効果の評価を行うと、UVC-LED(280nm)、UVB-LED(310nm)、UVA-LED(365nm)の順に不活化効果が高かったが、すべてのUV-LEDでH1N1亜型の感染力を1/100~1/1000以上まで不活化することができました(図3)。次に、UV-LED照射による不活化機構を調べるためにヘマグルチニン(HA)力価測定によりウイルスの細胞接着能を評価しました。すると、MDCK細胞への感染力を十分に減らす照射量(照射エネルギー)であってもHA力価は変化しなかったことから、UV照射による不活化効果は宿主細胞への接着能力の変化によるものではないと考えられました。さらに, UV-LED照射後の宿主細胞内の3種のウイルスRNA (vRNA, cRNA, mRNA)の動態を定量的RT-PCR解析によって調べると, いずれの波長のUV-LED照射でも宿主細胞内のvRNA, cRNA, mRNAの増殖を抑制したことから、UV-LED照射は宿主細胞内でのウイルスRNAの複製と転写の両方を抑制したと考えられました(図4)。

IMG_2.png
図2.本研究で用いた紫外線発光ダイオード(UV-LED)

(a)本研究で用いたUV-LED(日亜化学工業製)

(b)UV-LEDの波長スペクトル。

今回用いたUV-LEDは一般的に殺菌紫外線として用いられている低圧水銀ランプとは異なる波長帯を照射する。

(c)UV-LEDの放射照度。今回は定格上限の順電流で照射した。UVA-LEDは他の2つより放射照度が20倍程度高かった。

 

IMG_3.png
図3.UV-LED照射によるA型インフルエンザウイルス(H1N1亜型)不活化の評価

ウイルス溶液にUV-LEDを照射後、MDCK細胞に感染させプラーク法にて不活化効果を評価した。

下図はウイルス感染細胞をクリスタルバイオレットに染色した写真。

透明の箇所がウイルスに感染して細胞が変性した箇所を示す。

UVC-LED、UVB-LED、UVA-LEDの順で不活化効果が高かった。

 

IMG_4.png
図4.UV-LED照射は細胞内でのウイルスRNAの複製と転写を抑制した

インフルエンザウイルスは感染細胞の中でウイルスRNAの転写と複製を繰り返して子孫ウイルスを増やしていく。

1/10程度不活化できる照射量のUV-LED照射により、顕著に細胞内でのウイルスRNAの転写と複製を抑制した。

 

IMG_5.png
図5.UV-LED照射による高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1の不活化効果

ウイルス溶液にUV-LEDを照射後、MDCK細胞に感染させフォーカス法にて不活化効果を評価した。

H5N1亜型はH1N1亜型よりもUVB-LEDとUVC-LED照射で不活化されやすかった。

今後の展望(研究者からのコメント)

近年、病原性細菌(バクテリア)やバクテリオファージを用いてUV-LED照射の不活化効果を評価した研究報告が増えてきましたが、A型インフルエンザウイルスに対する効果を評価した報告はほとんどありませんでした。今回の研究は、一般的に広く利用されている殺菌紫外線ランプ(低圧水銀ランプ)とは全く異なる発光波長帯のUV-LEDを照射しましたが(図2参照)、低圧水銀ランプよりも長い波長領域でも十分に照射を行えば、A型インフルエンザウイルスの不活化ができることがわかりました。さらに、UV-LEDは感染細胞内でウイルスRNAの転写と複製を抑制することでウイルスを不活化している可能性が示唆されました(図6)。また、H1N1亜型だけでなく、高病原性鳥インフルエンザウイルスのH5N1亜型も不活化できることがわかりました。今回の論文では発表しておりませんが、今回用いたUVC-LED(280nm)照射のインフルエンザウイルスに対する不活化効果は低圧水銀ランプと同程度であることもわかってきました。本研究はまだ基礎的なスモールスケールでの研究でしたので、今後はインフルエンザウイルス感染予防の実用化に向けて、スケールアップや用途に応じた改良を進めていきたいと考えています。

また、UV-LED照射はウイルス表面のスパイクタンパク質?ヘマグルチニン(HA)の活性には影響を及ぼしませんでしたので、殺菌?不活化以外にもウイルスワクチンなどの他への応用も可能ではないかと考えられました。今後はさらに他種のウイルスへの効果や不活化のメカニズムを解明して、本技術の用途拡大を目指していきたいと考えています。

 

IMG_6.png
図6. 本研究で明らかにしたUV-LED照射によるA型インフルエンザウイルス不活化機構の概要図

 

特記事項

本研究は、地方大学を活用した地域の「稼ぐ力」創出事業、科学研究費補助金、徳島大学若手研究者学長表彰研究支援経費の支援を受けて行いました。

 

お問い合わせ先

徳島大学大学院医歯薬学研究部予防環境栄養学分野

責任者:高橋 章

電話番号:088-633-9598 ファックス番号:088-633-7092

メールアドレス:akiratak@tokushima-u.ac.jp

カテゴリー

閲覧履歴

このページと関連性の高いページ