大学院総合科学研究部 教養教育部門 教授 渡部 稔
「アフリカツメガエルのゲノムを解読:ヒトを含む脊椎動物の進化をもたらす全ゲノム重複の解明に迫る」
アフリカツメガエルは、1950年代から現在に至るまで、動物の体作りの仕組みや細胞の性質を調べる上で非常に有用な実験モデル動物として使われてきました。2012年に山中伸弥博士と共にノーベル生理学?医学賞を受賞したジョン?ガードン博士はこのカエルを用いて、「細胞の初期化」を初めて実験的に示したことで有名です。しかしながら研究の歴史が古くこれまで多くの重要な発見をもたらしたにもかかわらず、複雑なゲノム構造のため、アフリカツメガエルは主要モデル生物の中で、唯一ゲノム解読が行われていませんでした。しかし、主要モデル生物として生命科学の発展に不可欠であること、また脊椎動物の初期の進化の過程において起きたとされる2回の全ゲノム重複に重要な示唆を与えることから、2009年に日本と米国で期を同じくして独立にプロジェクトチームが立ち上がり、全ゲノム解読が始まりました。
この研究は「Nature」誌の2016年10月20日号に掲載されました。(DOI:10.1038/nature19840)。
論文タイトルは「Genome evolution in the allotetraploid frog Xenopus laevis(異質四倍体であるアフリカツメガエルXenopus laevisのゲノム進化)」です。
この論文には合計74名の著者が含まれます。そのうち日本人の著者は18機関、23研究室(海外を含む)からの30名です。
2種類の祖先種が雑種交配して全ゲノムが重複したとされるアフリカツメガエルの複雑なゲノム(異質四倍体ゲノムという)の全構造を明らかにしました。さらにアフリカツメガエルのゲノム中にすでに絶滅した祖先種から受け継いだ2種類のゲノム(サブゲノム)を特定することに成功し、約1800万年前の雑種交配と全ゲノム重複の後(異質四倍体になった後)にゲノムがどのように進化したかを初めて明らかにしました。
全ゲノム情報の利用は多岐に渡ります。アフリカツメガエルはこれまでもモデル生物として、胚の発生や細胞の機能などにおける遺伝子の役割やその分子メカニズムの解析に使われてきましたが、今回の研究で得られた全ゲノム情報を用いることで、さらに多くの知見がもたらされると期待されます。例えば、遺伝子を改変する「ゲノム編集」という技術が近年注目されていますが、全ゲノム情報を基にこの技術を使えば、任意の遺伝子を改変してその遺伝子のもつ役割を解析することができます。アフリカツメガエルを用いたこれらの解析は、ヒトの遺伝的疾患の診断や治療などに役立つものであり、生命科学の発展に大きく貢献するものです。
研究の詳細は、以下のウェブサイトを参照してください。
?内容紹介スライド
https://sendfile.s.u-tokyo.ac.jp/public/4UgYgAPJ0MFAsr4B-RtXcU3Xq-4DBPB7gEikT8SHEaMV
?詳細な内容紹介
https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2016/5056/
?Nature表紙
http://www.nature.com/nature/journal/v538/n7625/index.html
?Nature News & Views
http://www.nature.com/nature/journal/v538/n7625/pdf/538320a.pdf
?Nature Paper
http://www.nature.com/nature/journal/v538/n7625/pdf/nature19840.pdf